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海外書籍の翻訳:『起業家はどこで選択を誤るのか』が出来るまで(中編)

海外書籍の翻訳:『起業家はどこで選択を誤るのか』が出来るまで(前編)』では、企画から翻訳までのフローを小川育男さんにご紹介いただきましたが、中編では「校正」にフォーカスし、複数回の校正がどのように行われるかについて伺いました。

3. 初校

WORD校正と初校の大きな違いは、デジタルファイルか紙かの違いです。しばらく紙に文字を書くということをしていなかった私には驚きだったのですが、この段階ではやはり紙に印刷されたものに対して「赤入れ」をしていくことになります。なぜでしょうか?


初校に入る前に、「本のかたち」を決めます。版型と呼ばれる本の大きさを決め、フォントの種類・サイズ、余白の取り方、見出しの形式、脚注や訳注、原注の場所などを決めていきます。本の読者やイメージ、分量、読まれ方などを想定して、それぞれを決めていきます。編集者に選択肢を出していただきつつ、いろいろ意見を出し合いながら決めていきました。初校では、これらの「本のかたち」に文章を流しこみ、本の完成形として確認をしていくことになります。これが紙で行う理由です。


なるほど、と思ったのは、編集者が気にされていた「紙の白さ」です。つまり、今回の本は小説等と違い、改行が少なくパラグラフも長いので全体的に文字で埋まり「黒く」見えがちでした。なので、改行をなるべく増やし、大きな意味的な切れ目には空行を設けることにしました。あとは、グラフや図等の見栄えの確認もあります。


「本のかたち」にして印刷し、編集者が赤入れをしたら、私のところに原稿が来ます。そしてもう一度最初から読み直しにかかります。


校正

WORD校正では一文ずつ原文を確認しながら誤訳がないように見ていきました。そこで、初校ではもう一歩引いて、日本語としての読みやすさを重視して確認していくことにしました。意味的には正しいけど日本語的には読みにくい、そういった箇所を修正していく作業です。もちろん、その過程で誤訳が見つかることもありました。


このチェックも、単語レベルと文章レベルとあります。単語レベルでは、名詞を統一したり、動詞や形容詞を意味的に伝わりやすいものに変更したりということを行っていきます。語感の問題なので、明確な理由があるというより感覚的な要素が強いように思います。この辺りは、翻訳先の言語(ここでは日本語)への感覚が試されるところといってよさそうです。


文章レベルでは、文脈からみて必要のないフレーズ、特に主語や冗長な形容詞を削除していくということが多いです。これは、WORD校正でも行っていましたが、文単位だと意味の正確性のために残した方が良いと思われる表現でも、複数の文章やパラグラフを通して読むと必要ない、むしろ冗長で分かり難くなるというものもあります。さらに、読みにくい場合は、文章自体の書き換えも行います。ひとつ例を挙げましょう。


修正前:3年後、エヴァンはそのスタートアップを閉めた。「お互いの関係も、その失敗した事業もすっかり台無しになりました」

修正後:3年後、エヴァンはそのスタートアップをたたんだ。「失敗プロジェクトの山で、私達の関係もめちゃくちゃでした」

原文:"After three years, Evan shut down the startup: “It was a mess with our relationships and the failed projects…"


特に最後の文の書き換えに注目してください。英語では重要な文言が前にくるのに対して、日本語では後にくることが多いです。ここでは、文脈的に人間関係の話をしているので、「私達の関係」を後にもってくることにしました。


ちなみに、この文中に出てくるエヴァンは、エヴァン・ウィリアムズというTwitterのファウンダーのひとりです。


このように、文法的・内容的な文単位での正確性を重視したWORD校正とは違い、内容的な正確性を維持しつつも日本語としての読みやすさに焦点をあてたチェックをしていきました。


もうひとつ初校の段階で行ったことが、訳注の作成です。今回は内容的に専門性が高い箇所もあるので、なるべく丁寧に訳注を入れるという方針にしていました。特に、米国の法律や商慣習等が前提になっている箇所もあるので、邪魔にならない程度にできるだけ補足しています。


初校は、WORD校正とは違い、スカイライトの社員3名(私を入れると4名)で読み進んでいます。彼らが読んでいって、意味が分かりにくいと思ったところをチェックしてもらい、訳注を入れるということをしています(もちろん、訳注箇所以外の読みやすさのチェックもしてもらってます)。


ひとつちょっと苦労した例を挙げましょう。文中のインタビューで次のようなフレーズが出てきます。


「・・・新しい役割の中でお互いを信頼することを学ぶには時間がかかりました。最初は大変でしたが、いまでは『2つ頭のモンスター』になる道を歩んでいます。ひとりが言いだしたセリフをもうひとりが締めくくるようになりますよ 」


『2つ頭のモンスター』(two-headed monster)とは何でしょうか?それが分からないと、最後の一文の意味が全く分かりません。実はこれは、『セサミ・ストリート』という米国の子ども向け番組に出てくるモンスターで、1つのセリフを部分ごとに話すというのがお決まりのパターンだったそうなのです。米国ではきっと誰もが知っているモンスターなのでしょう。私はそのことを知らなかったのでネットを使っていろんなキーワードで検索し、探しまわることになりました。

Image via Muppet Wiki

こうして、チェックをした全員分の赤入れを反映させ、また編集者に原稿をお渡しします。次は再校です。


4. 再校と念校

初校でかなり修正箇所が多かったので、まずは再校の原稿に修正箇所が間違いなく反映されているかのチェックを行います。もちろん、反映させる編集者もチェックしているのですが、念のためのダブルチェックです。ただ、この作業はもうひとりの担当者にお任せし、私がやっていたのは別のチェックでした。


日本語の読みやすさというのもあらためて確認していくのですが、それ以上に気を配ったのは、パラグラフごとの論理性のチェックです。原著者がハーバード大学の教授であるだけあって、多くのパラグラフがきれいなPREP法で書かれていました。PREP法とは、プレゼンや文章構成のテクニックのひとつで、Point(結論)、Reason(理由など)、Example(例示)、Point(再び結論)という順番で説明していくやり方です。


ということは、パラグラフごとに何らかの結論(もしくは主張)があることになります。そこで、読みながら、その結論を書き出していきました。もちろん、すべてがきれいにPREPになっているわけではないですし、場所によっては要約が難しいところもあるのですが、それを書き出しつつ、訳文がおかしなことを主張していないかをチェックするという作業を行っていきます。


これらの過程で、何となくつながらない、何か違和感がある、といった箇所は原文にあたってみて、違う解釈がありえないかをチェックします。とはいえ、実際には、そのようなチェックが必要な箇所はあまり多くはありません。むしろ、多くあったら大変なのですが、このチェックでひっかかるような誤りは複数の文にまたがるような誤訳である場合があるので要注意です。とはいえ、多くの修正は初校と同様に読みやすさを意識した単語の修正や冗長な文節の削除になります。


再校を最後まで読み終わって赤入れが完了すると、次はいよいよ念校です。念校は、その名のとおり、「念のための校正」なのですが、今回は分量も多いこともあり、結構まだ修正が残ってしまいました。特に、巻末においた原注がかなり多いので、その訳語との整合性が気になっていました。そこで、念校では、本文を読みながら、原注にあたっていき、本文と原注の訳語の整合性をチェックしていきました。さらに、パラグラフ間の流れも意識して、初校の項で書いた「大きな意味の切れ目での空行」が正しいかどうか、追加できないかどうかも検討しました。

Photo by Mari Helin on Unsplash

これで、WORD校正、初校、再校、念校と計4回通して読んだことになります。もちろん、版権取得前に原文で1度読んでますから、計5回ですね。


簡単にまとめると、


WORD校正:文単位、英語から日本語に正確に訳せているか

初校:文単位、日本語として読みやすいか

再校:パラグラフ単位、論理的におかしくないか、日本語として読みやすいか

念校:文章全体、論理的におかしくないか、日本語として読みやすいか


というところを意識して翻訳していったことになります。


さて、翻訳としてはこれで終了ですが、書籍としてはとても重要なタイトルと装丁が残っています。次回は、タイトルと装丁の工程についてお話しようと思います。


海外書籍の翻訳:『起業家はどこで選択を誤るのか』が出来るまで(後編)


Written by 小川育男

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